退職後も安心!市場変動に強い資産の取り崩し方と考え方
退職後、資産を「どう使うか」が新たな課題に
いざ退職を意識し始めると、これまでの資産を「どう増やしていくか」という考え方から、「どう守り、どう使っていくか」という考え方にシフトしていく方が多いのではないでしょうか。長年かけて築き上げてきた大切な資産を、退職後の人生でどのように活用し、同時に市場の変動リスクからどのように守っていくのかは、多くの方にとって大きな関心事となります。
特に退職後、資産を取り崩し始める時期は、たとえ少額ずつでも資産が減っていく過程にあります。この期間に大きな市場変動、例えばリーマンショックのような金融危機や、コロナ禍のような急激な市場の下落に見舞われると、資産の目減りが加速し、その後の取り崩し計画に大きな影響を及ぼす可能性があります。
現役時代の積立投資は、市場が下落しても「安く買うチャンス」と捉えることもできますが、退職後の取り崩し期に市場が下落すると、「安い価格で資産を売却して生活費に充てる」ことになりかねません。これは資産の寿命を縮めることにつながります。
では、どうすれば市場変動の影響を最小限に抑えながら、安心して資産を取り崩していくことができるのでしょうか。この点について、分かりやすく解説していきます。
変動に強い取り崩しのための考え方
退職後の資産を取り崩す上で最も大切なのは、「長期的な視点に立ち、計画的に行う」ことです。そして、市場変動に備えるためには、以下の考え方を取り入れることが有効です。
1. 資産を「使うお金」と「育てながら使うお金」に分ける
退職後の資産をすべて一括で高リスク資産で運用するのではなく、すぐに使う予定のある資金と、比較的長期で運用しながら使う資金に分けることを考えましょう。
- すぐに使うお金(安心資金): 向こう数年分(例えば3年〜5年分程度)の生活費や近い将来の大きな支出(リフォーム費用など)に充てる資金です。これらは、市場変動の影響を受けにくい預貯金や個人向け国債など、安全性の高い資産で管理します。これにより、市場が大きく下落しても、慌ててリスク資産を売却する必要がなくなります。
- 育てながら使うお金(長期運用資金): 安心資金として確保した分を除いた残りの資産です。こちらは、市場変動を許容しながらも、長期的な視点で効率的な運用を目指します。
この区分けは、退職後の「精神的な安心感」にもつながります。手元にすぐ使える資金があることで、市場の上げ下げに一喜一憂することなく、落ち着いて資産全体を見守ることができます。
2. 退職後も「分散投資」を続ける重要性
現役時代に分散投資でリスクを抑えてきた方も多いと思いますが、退職後も分散投資は非常に重要です。むしろ、取り崩し期においては、特定の資産クラスの大きな下落が生活に直接影響を及ぼすリスクが高まるため、より一層重要になると言えます。
分散投資とは、一つの資産に集中せず、国内外の株式、債券、不動産投資信託(REIT)、あるいは異なる地域の資産など、値動きの異なる様々な資産に分けて投資することです。これにより、もしどれか一つの資産が大きく値下がりしても、他の資産の値動きである程度カバーできる可能性が高まります。
また、運用期間中も定期的な「リバランス」を行うことをお勧めします。リバランスとは、市場の変動によって資産の配分比率が崩れた際に、当初決めた比率に戻す作業です。値上がりした資産の一部を売却し、値下がりした資産を買い増すことで、リスクを一定に保ちつつ、市場の波に乗りすぎない運用が可能になります。
3. 市場の状況を見ながら「賢く取り崩す」工夫
退職後の資産の取り崩し方にはいくつかの方法がありますが、市場変動リスクを抑えるためには、特に市場が大きく下落している局面での取り崩し方を工夫することが重要です。
- 定額取り崩し: 毎年または毎月一定額を取り崩す方法です。計算がしやすい反面、市場が下落している時も同じ額を取り崩すため、資産の目減りが早まるリスクがあります。
- 定率取り崩し: 資産全体の残高に対して、毎年または毎月一定の割合(例えば年率4%など)を取り崩す方法です。資産の増減に合わせて取り崩し額も変動するため、資産がゼロになるリスクは定額取り崩しより低いとされますが、受け取り額が不安定になることがあります。
- 柔軟な取り崩し: 上記の定額や定率を基本としつつ、市場状況によって取り崩し額や取り崩す資産の種類を調整する方法です。例えば、市場が大きく下落した年は、リスク資産(株式など)からの取り崩しを控え、あらかじめ用意しておいた安全資産(預貯金など)から生活費を賄うといった対応です。
「柔軟な取り崩し」は、最も市場変動リスクに対応しやすい方法の一つですが、日々の市場動向をある程度把握し、ご自身で判断を行う必要があります。難しければ、まずは「安心資金」をしっかり確保し、市場が大きく下がった局面ではそこから取り崩す、というシンプルなルールを決めておくだけでも、精神的な負担を軽減し、資産寿命を延ばすことにつながります。
退職世代が考慮すべきその他のリスク
市場変動リスク以外にも、退職世代が資産運用・保全を考える上で考慮すべき点があります。
- インフレリスク: 物価が上昇すると、同じ金額で買えるものが減り、資産の実質的な価値が目減りします。預貯金だけで資産を持つことは、このインフレリスクに弱いです。ある程度リスクを取って運用することで、インフレ率以上のリターンを目指すことも検討が必要です。
- 長寿化リスク: 人生100年時代と言われるように、予想以上に長生きした場合に資金が枯渇するリスクです。退職後の計画を立てる際には、少し余裕を持った資金計画を立てることが重要です。
まとめ:計画と柔軟性を持って市場変動に備える
退職後の資産運用は、現役時代の「積立・形成」から「保全・活用」へと目的が変わります。市場の変動は避けられませんが、適切な計画と工夫によって、その影響を最小限に抑えることは可能です。
まずはご自身の退職後のライフプランを具体的にイメージし、必要な資金について考えてみましょう。そして、資産を「安心資金」と「長期運用資金」に分け、分散投資を継続すること。さらに、市場状況に応じた柔軟な取り崩し方を検討することが、市場変動に強く、安心して老後を過ごすための重要なステップとなります。
これらの考え方を参考に、ご自身の状況に合わせて、無理のない範囲で計画を進めてみてください。必要であれば、専門家のアドバイスを求めることも有効な選択肢の一つです。大切な資産を守りながら、豊かな退職後の生活を実現していきましょう。